ウルバンバの谷と、カカオの記憶
- 2 日前
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カカオ豆そのものを、初めて口にしたのは、 2022年、パリのサロン・ド・ショコラでした。
チョコレートとしてではなく、 素材としてのカカオに触れたその瞬間、 これまで知っていたものとはまったく違うと感じました。
香りが立ち上がり、 口の中でゆっくりと広がっていく。
その体験は、静かで、しかし確かな衝撃として残りました。
そのとき紹介してもらったのが、 ヨーロッパでカカオ豆の調達を行う、 Cacao LatitudesのValentinaでした。
サンプルとして受け取ったカカオ豆を持ち帰り、 試作を重ねる中で、 ひとつの豆に、強く惹かれていきました。
ペルー、ウルバンバの谷で育つ チュンチョと呼ばれるカカオです。

香りは力強く、 どこか大地を感じるような深さがある。
焙煎によって表情を変え、 繊細さと荒々しさの両方を持っている。
扱うのは、簡単ではありません。
豆は小さく、殻が多く、 チョコレートになる部分は限られています。
それでもなお、このカカオに惹かれ続けているのは、 その不安定さの中にこそ、 他にはない魅力があるからかもしれません。

ウルバンバ。
その名前を知ったとき、 どこか遠い記憶が動きました。
数年前、マチュピチュを訪れたとき、 クスコからの道中で通った谷の名前だったからです。
そのときは、ただ通り過ぎただけの場所でした。 広がる景色と、澄んだ空気。 その印象だけが、ぼんやりと残っていました。
あの土地で育ったカカオと、 後になってこんなかたちで出会うことになるとは、 想像もしていませんでした。
インカの時代から続く肥沃な土地。 多様な気候と、豊かな生態系。
その環境の中で育まれてきたチュンチョは、 土地の記憶をそのまま宿しているように感じます。
野生のまま育ち、 人の手が加わりすぎない場所で生きてきた豆。
その力強さは、 どんな言葉よりも、 口にした瞬間に伝わってきます。

かつて一度通り過ぎた場所と、 別のかたちで再びつながる。
カカオを通して、 土地と、自分の記憶が重なっていく。
カカオは、ただの素材ではなく、 時間や記憶、人の営みを運んでくるもの。
チュンチョという豆が、 そのことを教えてくれました。


































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